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2010年4月18日日曜日

#book 報道とツイッター

「人間は社会的な生き物だから、ソーシャルメディアはインフラになる」。ソーシャルメディアに関する議論においてよく耳にする言葉です。これには私も賛成で、これまで本ブログでも何度か言及してきましたが、今後日本でもソーシャルメディアは情報流通の中心になると確信しています。しかし、ソーシャルメディアには様々なものがあるため、実際にビジネスで利用する事を検討してる企業は今後どのサービスがデファクトになるかを慎重に見極め、そして目的を明確にした上で採用を決定する必要があり、これは極めて困難なプロセスになるかもしれません。ここで、シェル・イスラエル氏による「ビジネス・ツイッター」は大いに参考になりそうです。
本書の書評としては、ループス・コミュニケーションズ・斉藤氏(@toru_saito)の書評を強くお勧めします。本書購入の決め手となりました。また、AMN・徳力氏(@tokuriki)の書評も非常に参考となりますので合わせてご参照下さい。
さて、私は報道機関で働く人間の視点から、本書について少し解説したいと思います。

本書の第11章「ツイッターと個人としてのブランド作り」で紹介されていたNBCのテレビカメラマン、ジム・ロング氏(@NewMediaJim)の事例は、現在マスメディア企業で働かれている記者・編集者の方々がセルフブランディングについて考えられる上で非常に参考になるのではないでしょうか。
  • ジム・ロング氏は1993年以来、NBCのテレビカメラマンを務めている
  • テレビを含めたオールドメディアには昔日の勢いは無く、近い将来自分にもリストラされるのではないかと考えていた
  • 2008年のSXSWカンファレンスにて氏はツイッターに出会った
  • 以降、テレビカメラマンの視点でTweetしていたが、これが評判となった
  • 2009年5月現在3万のフォロワーがいる(2010年4月18日現在は3万7千)
  • 氏はツイッター上でセルフブランディングを行っている
  • レイオフされることに備えておき、NBCで過去15年の間に培った経験を生かし、自分自身のブランドで新しいオンラインビジネスをいつでも始められるようにしている
ジム・ロング氏のツイッター利用について、著者は「ロングの活動がクチコミ・ネットワークの世界におけるNBCの存在を拡大していることは確かだ」と述べた上で「ロングがツイッターで行ってきたさまざまな活動は、NBCが新しい対話メディアの時代に対処できるよう変身するのに、大きな参考となるはずだ。だが、NBCのトップが本当にそうした変身を望んでいるのかは疑わしい」としています。そして「ロングはオールドメディアの職で得た経験を、ツイッターで作った個人ブランドの上でビジネスに結びつけようとしている。同僚たちの多くが時代遅れの遺物となる危険にさらされているのに反して、ロングが成功を収める可能性は高い」と締めくくっています。

現在マスメディア企業で働かれている方は、第12章「複合ジャーナリズムの時代」だけでも読む価値はあると思います。ツイッターの登場は情報流通に何をもたらしたのか、そして情報流通はこれからどのように変わっていくのか…本書で明快に解説されています。市民ジャーナリズムはかつてないほどに広がり、発信力も高まっています。そして間違いなく言えることは、今やジャーナリズムにとってソーシャルメディア、特にツイッターは欠かせない、という事です。
P277
メディア企業の価値は、信頼できるニュースを届けるための効果的な組織であるところに存在する。それがニュースメディアのブランドである。ブランドはコンテンツが印刷された紙に属している。読者がオンラインに移動すれば、新聞社はいやいやながらもその後を追わざるをえない
P282
ソーシャルメディアは、災害が襲ったときに、たったひとりの人間でも、立ち上がってコミュニティの人々の情報交換に貢献できることを証明した。
個人的には第16章「ヒントと指標、加えて少々細かい話」の「フォロワーを減らすことも大事だ」にあった次の一節が非常に印象に残りました。
P398
(著者自身の興味の変遷について)フォロワーが好むソーシャルメディアの話題に終始しているべきだっただろうか。私は否と答えたい。昨日興味をもった内容だけを書いていれば、日々の成長すら感じられなくなるではないか。しばしば、そんなものは存在しないのに、フォロワーへの義務を感じてしまったりすることがある。発言に対して報酬をもらっているわけではない。私に何か価値があるから人がフォローしてくれるのだ。

私はライターとして種々の経験を積んできた。自分の立ち位置をいろいろと変えてさまざまなテーマに取り組んできた。ツイッターでは少しスタンスを変えて、自分のスタンスを保ちつつ、フォローする人やフォローをやめる人の数を見て適正な位置を探っている。
本書、お勧めです。