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2011年6月30日木曜日

ウェブページ内で関心が寄せられている単語を把握する

Aptureの新機能が面白そうなので、メモを残しておきます。


Aptureは2007年にローンチした、一言で言えば「ウェブ上の任意の単語をその場で調べる」機能で、使い方は非常にシンプルです。Aptureに対応したサイトであれば、そのサイト上にある調べたい単語をマウスでハイライトすればAptureボタンが浮かび上がってきますので、あとはこれをクリックするだけ。その場でハイライトした単語の検索結果がポップアップウインドウで表示されます。このブログはAptureに対応させていますので、試しに「Apture」でもハイライトしてみてください。ちなみにAptureに対応していないサイトでも、ブラウザにAptureプラグインをインストールすればAptureを利用できます。

意味のわからない単語に出くわしたとき、以前は逐一別ウインドウや別タブを開いてGoogleで検索したりウィキペディアで調べたりしていましたが、Aptureプラグインをブラウザにインストールしてからはこれをやることがほとんど無くなりました。

さて、先日このAptureにHotspotsと呼ばれる機能が追加されました。HotspotsはKindleのポピュラーハイライトのような機能で、これまでは単に単語を調べるだけだったのですが、Hotspotsが追加されたことで、他の人によってAptureで調べられた単語が自動的にマークされるようになったのです。しかも調べられた回数も表示されます。


以下は紹介記事。Aptureがこれまで収集してきた「人々によってハイライトされる単語」の情報を有効活用しようとしたところから、今回のHotspotsが生まれてきたようです。


英語で恐縮ですがHotspotsの説明画像を転載しておきますね。

Apture Step by Step

利用者が増えなければ効果は薄いのですが、利用者にとっては他の読者が、サイト運営社にとっては自社サイトの読者が、ページ内のどのような単語に関心を寄せたのかがわかるようになるわけで、これはなかなか使えるのでは、と密かに今後の展開に期待しています。「誰がどのタイミングで」あたりまで可視化されれば、一段とクールになるのでは。なお、現時点で英語のサイトではHotspotsが散見されますが、残念ながら日本語のサイトではほとんど見られません。

導入方法は非常に簡単ですので、是非一度お試しください。

2011年6月29日水曜日

報道分野のイノベーション支援から見る今後の方向性

先日、米国のナイト財団が報道分野のイノベーションを促進するために毎年実施している資金提供プログラム「Knight News Challenge」の受賞プロジェクトが発表されました。5回目となる今年は、16個のイノベーティブなプロジェクトに対して資金が提供されるようです。東日本大震災直後に貴重な情報源の一つとして注目されたsinsai.infoで使われているOSS、Ushahidiが名を連ねています。


ちなみにGoogleが提供資金を寄付していますね。


さて、今年の受賞プロジェクトも例年同様、ニュースのビジュアライズに関連したものや、コミュニティ構築を促進するもの、特定地域の市民メディアの立ち上げを支援するものなど多岐に渡ってはいたのですが、大量のデータからニュースを見つけ出す、いわゆる「データジャーナリズム」に関連したプロジェクトが目に付きました。例えば市民が身の回りのデータを収集・調査・共有するためのツール開発を目指すThe Public Laboratory(既に2010年メキシコ湾原油流出事故で活用されているようです)や、大量のデータから意味のある、ニュースとなりそうな情報を抽出するツール開発を目指すOverview、ソーシャルメディアからニュースを見つけ出すツール開発を目指すiWitness、ジャーナリスト向けにウェブページからデータを抽出して共有するためのツール開発を目指すScraperWiki、そして政府や公共機関などが公開するデータを分析するためのツール開発を目指すPANDAなど、16のプロジェクトのうち、実に6つのプロジェクトがデータジャーナリズムに関するものとなっています。Google資金の影響もあるのかもしれませんが、ネット上のデータが増え続けている昨今、これは妥当な動きなのかもしれません。

こちらもご参考までに。そんなことは無いと思いますが「21世紀、特ダネは足で探すのではなく、アルゴリズムで探すようになる」「全てのジャーナリストはデータ(が理解できる)ジャーナリストであるべきだ」と豪語しています。


と、以上は海外の動きです。

日本でもオープンガバメント化が進んでいることや、ソーシャルメディアの利用者層が広がりつつあることを考慮すると、国内の報道機関においてもこうしたデータジャーナリズムのためのツールが必要になる日が遠からずやってきそうですよね。ということで、いずれも興味深いプロジェクトということもあり、今後も少し追ってみようと思います。

余談ですが、上述したScraperWikiはデータジャーナリズムとは関係なく現在既に利用できます。なかなか役立ちそうかつ面白そうなサービスですよ。


データジャーナリズムについては過去の記事もどうぞ。

2011年6月9日木曜日

#book イノベーションの技法

先日、少し前にある方にお勧めいただいた書籍『発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』をようやく読了しました。本書には米国で数々のイノベーションを支援してきた会社・IDEOが実践しているイノベーションの技法が紹介されているのですが、これがなかなかエキサイティングな内容となっています。私が購入したのは第10版でしたので、結構ロングセラーになっているのではないでしょうか。

IDEOについてはウィキペディアにまとまっています。アップルもクライアントのようですね。

IDEO - ウィキペディア


IDEO(アイディオ)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州パロアルトに本拠を置くデザインコンサルタント会社。パロアルトの他に、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨーク、ボストン、ロンドン、ミュンヘンそして上海に拠点を持つ。IDEOは製品、サービス、環境そしてデジタルエクスペリエンスのデザインへの支援を行っている。加えて、マネジメントコンサルティング事業を強化している。

以下、本書の内容を少しご紹介します。

本書によれば、イノベーションとは「これまでの製品やサービスにはない、新たな経験を提供すること」と言えそうです。

10章 新しい経験をつくりだす (P216)


革新的な会社や強力なブランドは、「経験」という言葉につながっていることがわかるだろう。

ちなみに本書で「イノベータ」としてよく引き合いに出されるのはアマゾンやデル、そしアップルです。本書は9年前に出版(初版は2002年7月)されたのですが、こうした企業が未だに元気なことを考えると、イノベーション恐るべし、ですね。

ラスベガスからも多くを学べるようです。

10章 新しい経験をつくりだす (P226)


経験を企画し提供することがどれほど効果的かを観察するのに、ラスベガス以上の場所はないだろう。

(中略)

どんな分野の仕事や産業も、小売業や業務用製品の販売業でも、ラスベガスから多くのことを学べる。

(中略)

古いラスベガスは滅んだ。当たり前のことだ。人間を虫けらのように扱うと、最後にはたいてい失敗する。ラスベガスがやったのは、この町自体を徹底的につくりなおすことだった。

それではどうすれば、綺羅星のような企業のごとく、そしてラスベガスのようにイノベーションを起せるのか?

ここでまず最低限必要なのは、ライトスタッフを集めたチーム(本書では「ホット・チーム」と表現されています)のようです。イノベーションを起すには、クリエイティビティを発揮し、インスピレーションを湧かす必要があるらしいのですが、これは絶対に一人ではできない、とされています。

そして本書では「イノベーション」や「クリエイティビティ」「インスピレーション」などと同様に、頻出する単語が3つあります。私はこの3つの単語がイノベーションを起すためのポイントだと捉えました。すなわち、

  • 徹底的な「観察」
  • 良質な「ブレインストーミング」
  • 山のような「プロトタイプ製作」

いずれの単語も一つの章を割いて詳細が説明されています。とは言え、一番大切なのは、やはり楽しむことのようです。

第15章 完璧なスイングを身につける (P320)


次に難しいプロジェクトに深くかかわるときには、イノベーションの真のスピリットを忘れないように。

そう、それは真剣に楽しむことである。

ということで、詳細については本文にお譲りすることとし、本書に書かれている内容を端的にまとめると、おおよそ次のようになります。

イノベーションとは、新たな経験を提供すること。イノベーションを生み出す秘訣は、まずホットなチームを組織し、徹底的な観察から始め、良質なブレインストーミングを繰り返し、山のようにプロトタイプを製作することだ。もちろん、楽しむことを忘れずに。

理論と実践は正反対、やってみなければ何とも言えませんが、個人的な印象としては実践してみる価値はかなりありそうです。イノベーションは起こさないより起こした方が楽しいですからね。とりあえず、出来るところからやってみましょうか。本書に書かれているイノベーションの技法は、製品にでもサービスにでも何にでも適用できるそうです。イノベーションを起すことにご興味をお持ちの方は是非ご一読を。

2011年6月7日火曜日

情報発信者の役割と責任について考える

先週土曜日(6月4日)に参加した日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ:Japan Center of Education for Journalist)が主催するワークショップ「震災報道と一人称のジャーナリズム」は、「伝わる情報とはどのようなものか?」そして「情報を伝える側が果たすべき責任とは?」について考える貴重な機会となりました。少々敷居の高い問題ですが、震災報道が落ち着きつつある今だからこそ、改めて考えてみても良いかもしれません。


本ワークショップの講演者の一人、河北新報の記者・寺島さんは、一新聞記者、そして一被災者として被災地を取材、新聞記事を書く傍ら、新聞記事では伝えきれないものをご自身のブログに掲載されています。ワークショップの参加者は事前にこれらを読み比べ、感想を寄せていましたが、同じ題材を扱っているにも関わらず多くの方が「新聞記事よりもブログ記事の方が伝わってくる」としていました。ワークショップでは、この違いがどこからくるのか、活発な議論が展開されました。みなさんはどのように感じられるでしょうか。


ソーシャルメディアが浸透しつつある中で発生した東日本大震災では、多くの人が情報の受け手であったと同時に、情報の出し手ともなりました(ブログやツイッター、フェイスブックを通じて少ないながらも情報を発信していた私も例外ではありません)。その中で、少々大げさかもしれませんが、例えば「一本の記事、一回のリツイートが、一つのコミュニティを破壊するかもしれない」と考え、慎重に発信した人はどれほど居たのでしょうか。残念ながら私はそこまで考える事ができていませんでした。

ディスカッションでは「個人レベルで信頼できる情報を発信するには、自由に参照可能な確かな一次情報(FACT/DATA)がもっと必要なのではないか」といった意見が出ていました。

ソーシャルメディアは人命救助や被災地支援において有効に働いた半面、多くのデマの温床となった一面もありました。また、ネットでは有る程度センセーショナルな記事にすることがアクセス数を稼ぐための常套手段とされていることから、かなりきわどい記事が多かった事も否めません。今以上にソーシャルメディアを有効に活用するためにも、情報を発信する側が果たす責任について、もっと踏み込んで考えてみたいところです。

ワークショップではこのほか、「復興計画立案におけるマスメディアや学会の役割」「震災報道における全国紙、地方紙、海外メディアそれぞれの役割」「河北新報がソーシャルメディアを利用するに至った背景」などについて議論がなされました。

ワークショップでは「被災した地方紙の記者」そして「震災報道をつぶさに見てきて全国紙の記者」の視点から講演がありましたが、最後に要旨をまとめておきます。「伝わる情報とはどのようなものか?」そして「情報を伝える側が果たすべき責任とは?」。みなさんも考えてみてはいかがでしょうか。

被災した地方紙の記者(河北新報・寺島氏)


  • 震災被害に直に向き合う未曾有の体験だった。
  • 震災直後は社員とその家族の安否確認を最優先し、取材に向かえる記者を確保する一方、新聞を刷るために必要な紙や重油などの物資や、販売経路の確保に走り回った。
  • 被災地に取材に行ってみると、そこはまるで焼け野原のようになっており、何が現実なのか、何を書けば良いのかわからなかった。そしてその中で、ひとつひとつ、被害の全体像を把握するためのピースを集めていった。
  • 地元の記者は津波に飲み込まれる前の町の様子を知っている。その町が無くなった事実を伝えたかった。
  • 被災者がどのような情報を求めているのか、考え続けた。
  • 紙の新聞にこだわらず、ウェブサイト、SNS、ツイッターなど、様々なツールを利用し、情報を発信し続けた。ブロガーにも協力を依頼した。SNSやツイッターで市民が必要としている情報を読者から直接集めた。新聞社のメディアが「紙の新聞だけ」というのは過去の話。市民と繋がるメディアを手にした。
  • 記者が作った物語ではなく、市民が語った物語を記録したいと考え、新聞では伝えきれない部分をブログに書くようになった。
  • 地元の新聞社が復興にどう関わっていけるのか考えていく。過去の震災から得られた教訓を生かしたい。

震災報道をつぶさに見てきて全国紙の記者


  • 別の取材があったため震災の取材には参加しなかった。しかしその分、新聞、テレビ、ネットで展開された震災報道を客観的に見ることができた。
  • 震災直後、取材現場はテクノロジーの限界に直面していた。電気が無いと取材は難しい。
  • ネットでは予定調和的なものをやぶる記事にアクセスが集まっていた。また、ツイッターでは「原発」や「節電」など当事者意識を持ち易い話題が比較的盛り上がっていた。
  • 震災から1カ月後、近畿地方の新聞の一面からは震災に関するニュースが殆ど無くなった。関東地方の新聞では震災のニュースではなく、原発のニュースが多くを占めていた。
  • 報道される被災地と報道されない被災地があった。市民は、伝えられる現場は知っているが、伝えられない現場は知らない。
  • 今回の震災報道では、被災地以外の人に被災地の様子を何とか伝えようと、ルポ風の記事が目についた。ルポでは書かれた人に納得してもらうことが大切になる。しかしアクセスを稼ぐことが優先されると、この視点が忘れられやすい。
  • 一人称ジャーナリズムは、しっかりとしたFACTやDATAが無ければ成り立たないのではないか。
  • 被災地以外の人に対する訴求力を高め、持続的に関心を持ってもらうにはどうすれば良いか考えたい。

なお、今回のワークショップからJCEJの運営に携わることになりました。