まず電子書籍をめぐるおおまかな現状から。
国の電子書籍に対する取り組みは総務省のホームページで確認できます。ちなみに国会図書館の現館長はIT畑出身ということで、国会図書館は既に蔵書のデジタル化に熱心に取り組んでいるようです。
- 2009年の電子書籍の市場規模は日本がダントツの世界一で、日本の場合は市場規模の9割以上がケータイ向けの電子書籍(INTERNET Watchに「日本における電子書籍の市場規模の推移」が、セルシスが発表したプレスリリースに「日本の2008年度の電子書籍の市場規模に対する解説[PDF]」が、それぞれ掲載されています)。<※正確な数字は失念してしまいましたが、日本が500億円強、アメリカは20億円強だったと記憶しています。どなたか正確な数字をご連絡いただけると助かります>
- 日本の紙の書籍の市場規模は年々縮小(2007年は約39億冊、2009年は約34.5億冊)。
- それに伴い日本の出版社数も縮小(2007年は4260社、2009年は3939社。ここには個人出版者も含まれる)。
- 電子書籍の流通フォーマット(電子書籍リーダで取り扱い可能なフォーマット)には様々なものがある。ここで、日本の主流(.MOBI、TTZ/TTX、.BOOKなど)と世界の主流(ePub及びPDF)は異なる。
- アマゾンのKindleやアップルのiPadがけん引役となり、電子書籍リーダの世界の市場規模は年々大きくなると予測(2000年は550万台だったのが2013年は2200万台程度にまで大きくなると予測)。
- KindleやiPad、今後海外で発売が予定されている電子書籍リーダで共通で利用可能な流通フォーマットは世界の主流(ePub及びPDF)に集約されていくものと想定される(ただし、iBookのePubは通常のePubを拡張したものとなっている)。
- 著作権保護の観点から、PDFよりもePubが主流になると思われる(ePubにはDRMの埋め込みが可能)。
さて次に電子書籍に関わる問題点です。
こうした状況の中、ebookjapanでは2000年から電子書籍に対して積極的に取り組まれています。
- もともとデジタル化されていた音楽とは異なり、紙媒体のデジタル化にはコストがかかる。
- 既に紙媒体で出版済の書籍については著者等との権利関係が複雑なため、デジタル化に至るまでの調整に時間がかかる。
- 今後デファクトとなりそうな電子書籍の流通フォーマットであるePub(現在のバージョンは2.0)は欧米中心に標準化作業が実施されているため、日本の要望が反映されていない。(現在のePubの問題点「文字サイズの変更に伴うレイアウトの崩れ」や「ルビに未対応」などを次期ePubにおいて是正してもらうため、日本は中国や韓国と連携してePubの標準化団体である IDPF : International Digital Publishing Forum に対して要求仕様を提示する予定)
講演者の小出氏曰く、200冊の紙の書籍を制作するのに20年かけて育った直径20センチ高さ8メートルの木1本が必要とのことでしたので、デジタル化はエコにも繋がりそうです。なお、ebookjapanの取り組みについてはNHKの「Bizスポ」で放映された特集がとても参考になりそうなのですが、残念ながらYouTubeにはありませんでした。
- ebookjapanはマンガを中心とした電子書籍の販売サイトを運営する一方で、出版社・著者からの委託を受け、紙の書籍のデジタル化を推進している。
- ebookjapanの2010年4月現在のラインナップ数は約3万5千点(その殆どがマンガ)だが、これではまだまだ足りず、最低ラインの10万点までは早急に増やしたい。
- ebookjapanの電子書籍の流通フォーマットはEBIで、リーダは専用アプリ。2010年4月現在、Windows、Macの他、iPhoneにも専用リーダアプリをリリース済で、今後はiPad、アンドロイドにも順次専用リーダアプリを投入予定。
- ebookjapanでは、直接ebookjapanと契約した場合の著者のレベニューシェアは二割から三割程度(間に出版社が入った場合はわからない)。
- 「トランクルームサービス」でアンビエントな環境(好きな時に好きなデバイスで読める環境)をある程度確保しつつ、海賊版対策も実施(セカンドベスト)。
- 日本のマンガは世界的にも人気が高いため、現在は大きな市場が見込めるアジアへ進出中。既に台湾には進出済で、台湾を橋頭堡に中国市場へ狙いを定めている。
そして最後、ITエンジニア視点での電子出版への対策(あくまで私見)を少しまとめておきます。
- 今からデジタル化に着手する場合、KindleにせよiPad(iBook)にせよ主要な電子書籍リーダが共通して採用している流通フォーマットはePubであるため、とりあえず最終的にはePubに変換できるよなフォーマットを採用しておく。
- 既にデジタル化に着手している場合、現時点で採用している流通フォーマットからePubに変換する道筋をつけておく。
- ただし、ePubは現時点でやや難があり、また、今後もそれが解消する保証は無いため、インタラクティブ性の高い電子書籍とする場合には、専用アプリで展開することも視野に入れる。
- 今のうちに権利関係を整理するよう他部署へ働きかける。
- 次期ePubに日本からの要求をより多く反映してもらうように何らかの支援を試みる。
もし内容に不備など発見されましたら、ご連絡いただけると助かります。
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[2010-04-22 18:30]
「日本における電子書籍市場規模の推移」(INTERNET Watch)及び「日本の2008年度の電子書籍の市場規模に対する解説」(セルシス)へのリンクを追加。@mryo0826 さん、ありがとうございました!
[2010-04-26 10:27]
ITmedia オルタナティブ・ブログに大元隆志氏(@takashi_ohmoto)が素晴らしい関連記事をアップされていました。
この話も押さえておきたいですね。