2010年10月28日木曜日

日本に市民ジャーナリズムが定着しない理由

少し前、2010年6月21日にNYタイムズに掲載された日本のジャーナリズムに関する記事が非常に興味深い内容でした。


JANJANやオーマイニュースなどを例に、日本で市民ジャーナリズムや新興メディアが勢力を伸ばせない理由について言及されています。なかなか読み応えのある記事でしたので、以下、抄訳を掲載しておきます。もし誤訳を発見されましたら、ご一報いただけると助かります。

日本のメディアの現状


オンラインニュースメディアJANJANは過去数年間、市民記者による捕鯨やマスメディアと政府の共謀といったタブーに切り込む記事を提供することで、日本の体制に従順な生ぬるい報道機関に対し果敢に挑戦を続けていた。しかしこのサイトは最後まで十分な読者、十分な広告を得る事ができず、3か月前(注:2010年3月)についに閉鎖へと追い込まれた。(注:JANJANは今年4月24日から「JANJAN Blog」として新たにスタートを切っています)

未来を嘱望された市民ジャーナリズムによる日本の主要なオンラインニュースメディアは、過去2年で全て閉鎖(JANJAN、オーマイニュースツカサネット新聞)、あるいは規模を縮小(PJニュース)したことになる。

これは単に市民ジャーナリズムが失敗しただけでなく、未だ日本には画一的で硬直化したニュースメディアへの対抗軸が存在していないことを意味する。

JANJANを設立した竹内氏は「日本はまだ(市民ジャーナリズム受け入れる)準備が出来ていない」と話す。「日本でオルタナティブなニュースメディアを立ち上げるのはとても難しい」

日本は、長期に渡った経済的不調の末の政権交代を機に、「戦後的な構造」の解体が徐々に推し進められようとしている中、同じく「戦後的な構造」であるニュースメディアは、これまでのところ「変化」の外側にある。民主党は排他的な記者クラブの解放を推し進めようとしてはいるが、これではまだ抜本的な改革とは言えない。

米国を含めた先進国のニュースメディアで起きているデジタル革命を起点とした変化は、日本では文化的、あるいは経済的な理由などにより、まだ起きていない。日本のニュースメディアは、昔から存在している読売新聞などの旧来からの巨大メディア企業によって支配されているのが現状だ。

特定の人たち向けのブログやショッピングサイト、チャットルームなどは日本でも流行している。しかし、ニュースサイトには多様性が無く、そしてその殆どは旧来からの巨大メディア企業がほんの付け足し程度に運営しているものだ。

他の国々では、例えばアメリカのハフィントンポストのような、影響力を持った新興ニュースメディアが誕生してきている。日本にもJ-CASTニュースThe JOURNALのような新興メディアは存在しているが、これらは十分な読者(影響力)を獲得しているとは言えない。

市民ジャーナリズムサイトはタブーに切り込むことで多くの注目を浴びてきたが、繁栄することはできなかった。JANJANより前、オーマイニュースは2年前に閉鎖、そしてツカサネット新聞は昨年9月に閉鎖した。また、PJニュースは規模を縮小し、今では専用のオフィスすら持ち合わせていない。

先の竹内氏も含めこれらのオンラインメディアに従事してきた人達は、収入面、運営面からいくつもの失敗理由を挙げているが、その中で竹内氏は、突出することを嫌う「日本的な文化」にも原因があるのではないかと考えている(目立つ人、人とは異なる事をやる人を軽蔑する日本の文化が、「市民記者制度」にマッチしない)。

日本の隣国、韓国と比べてみよう。オーマイニュースは市民ジャーナリズムで旧来からある巨大メディア企業に挑み、韓国のメディア業界に変革をもたらした。そして2002年、韓国大統領選に大きな影響を与えた(オーマイニュースがノ・ムヒョン氏を支持、そのまま大統領に選出された)。その後オーマイニュースは62,700人の市民記者を抱え、運営サイトのページビューが200万PV/日を誇る強力なメディア企業となった。日本の3分の1の人口であるにもかかわらず…

しかしそのオーマイニュースでさえ、日本では成功しなかった。ページビューは高々40万PV/日、市民記者の数も4,800人に留まった。

日本オーマイニュースの元社長・元木氏などは、日本人がオルタナティブなニュースメディアに対して抵抗する理由として、社会性・政治性の欠如(社会や政治に対する関心の低さ)を挙げる。韓国人の政治への関心の高さがあったからこそ、オーマイニュースは韓国で成功できた。

日本のジャーナリスト、佐々木俊尚氏は「利害の衝突を自覚したときにのみ、その社会は新たな視点や情報を求めるようになる」と話す。

メディアの専門家は「日本人はまだ旧来メディアに対して強い疑問を抱いていない。ほとんどの日本人は未だ旧来メディアからの情報を受動的に受け付けている」と話す。

それでも日本のニュース業界には変化の兆しがある。特に日本の若者の間では、新聞の影響力が低下してきている。

例えば世界第2位の発行部数を誇る朝日新聞の発行部数は、過去10年間毎年3%ずつ減り続け、今や800万部強にまで落ち込んだ。

竹内氏が7年前にJANJANを設立したとき、彼は、政府に対して無批判あるいは批判する力のない日本の旧来メディアをひっかき回そうと考えていた。

設立当初のJANJANは、捕鯨問題など旧来メディアがあまり取り扱わないトピックをぶち上げ、関心を引いたこともあった。しかし、世界的な景気後退や広告収入の低下のあおりを受け、会社を維持するために必要な収益を得ることができなかった。そして今、竹内氏はブログメディアを新たに立ち上げ、再スタートを切った。

竹内氏の最大の挑戦は記事の品質を確保することだった。読者から投稿される記事の殆どは「主要メディアが配信した記事を焼き直したものに自分の意見を追記する」形式を取っていた。

経験豊富なジャーナリストの多くは、自身が所属する大企業から先の見えない新興企業へ転身することに躊躇した。そのため、竹内氏は彼らを雇うのは困難を極めた。しかし、アメリカのように旧来メディア企業が凋落し、ジャーナリストのレイオフやメディア企業の倒産が増えてくることで、今後は少し状況が変わってくるのではないかと、メディアの専門家は予想する。

東大教授の望月氏は「JANJANは失敗した。しかし、JANJANは日本に種を蒔いた。今後も新たな挑戦が行われるだろう」と話す。

JANJAN、そして竹内氏とは以前に選挙報道関連のプロジェクトをご一緒させていただいたこともあり、JANJANの休刊はとても残念でした。しかしこの記事にあるように、規模は縮小したといえど、まだその挑戦は続いています。PJニュースも然りです。



私も現在の日本のジャーナリズムに対して大きな問題意識を持っていますが、残念ながらまだまだ自分の言葉でそれを説明できるほどの材料を持ち合わせていません。しかし今後も「日本のジャーナリズムのあるべき姿」について考えて行きたいと思います。

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[2010-10-31]

世界で市民ジャーナリズムを牽引しているメディア、CNNとAllVoiciesは押さえておきたいところ。


特にAllVoiciesは注目です。