2010年10月20日水曜日

オープンエデュケーションの可能性

「グローバルに職を求めて競争する準備のために教育がある」

米国ではオバマ大統領就任時のこの言葉が原動力となり、東西の教育機関や研究機関、そしてベンチャー企業が中心となって、今、もの凄い勢いで「オープンエデュケーション」に取り組まれています。そしてオープンエデュケーションに熱意を持って取り組んでいる人達の根底にあるのは「(世界中の)すべての人に、平等な教育の機会を与える」という信念…

このエピソードは『ウェブ進化論』の著者・梅田望夫氏と、現在MITでご活躍されている飯吉透氏の共著『ウェブで学ぶ』にあったものです。本書では、インターネット上に無料で公開されている動画やテキスト、画像などの教育教材や、学習を支援するオンラインサービスを利用して学習することを「オープンエデュケーション」としています。


現時点でも、英語とインターネットさえ使えれば、膨大な数の学習教材や、高品質な学習システムを、無償、あるいは低コストで利用可能なようです(本記事の最下部に、本書で紹介されていた各種オンラインサービスをまとめておきました)。

私は本書を読むまで、オープンエデュケーションについてほとんど何も知りませんでした。最近仕事で教育関係のプロジェクトに関わるようになり、初めは興味本位で読み始めたのですが、オープンエデュケーションが秘めるポテンシャルに理解が及ぶようになると、たちまち引き込まれてしまいました。

オープンエデュケーションを構成する基本的な要素は「オープン・コンテンツ」「オープン・テクノロジー」そして「オープン・ナレッジ」で、アメリカを中心に世界各国でそれぞれの分野について様々な取り組みがなされているようです。

  • オープン・コンテンツ
    無料で使える学習教材。マサチューセッツ工科大学の Open Course Ware や、アップル社の iTunes U などが有名。
  • オープン・テクノロジー
    無料で使える学習システム。
  • オープン・ナレッジ
    無料で使える学習ノウハウ。教師向け(教える側)のノウハウと、生徒向け(学習する側)のノウハウとがある。

これらとは別に、教育者同士や生徒同士、そして教育者と生徒を結び付けるオンライン上の学習コミュニティも存在し、ここで情報を交換しながら、世界中で多様な「学び」が実践されているようです。

ITジャーナリスト・佐々木俊尚氏は、自身のメルマガ110号(9月27日号)において、本書でも紹介されていたカーンアカデミーを引き合いに出し、オープンエデュケーションについて次のような見解を述べられています。

これはオープンエデュケーションの典型的なケースです。こうした形で、教育の内容のコンテンツがオープン化していき、世界中の人々がそれを共有していく。素晴らしい講義をウェブで共有するTEDのプログラムのように、日本語も含めた各国語の字幕を付けるプロジェクトがもしカーンアカデミーと結びつけば、英語圏でなくフランス語圏や中国語圏、日本語圏でもカーンアカデミーのコンテンツは普及していくかもしれません。

オープンエデュケーションという考え方は、まだスタートしたばかりで今後の方向性の全容は見えてきていません。そもそも教育というのは非常に巨大な生態系で、教育内容(コンテンツ)と、その教育を実際に教えるシステム(プラットフォーム)、さらにはそこに教師がどのように参加していくのか、そしてその教育はどのような場で行われていくのか、と多岐にわたっています。

カーンアカデミーのような試みは、とりあえずコンテンツの部分をオープン化しようという「オープンコンテンツ」の試みであり、今後はこれが教育のプラットフォームそのものをも既存の学校から解き放ってオープン化していこうという「オープンプラットフォーム」へと進んでいくのかもしれません。

オープンエデュケーションにはまだまだ多くの課題があるようなのですが、それでも「教育の形」は今後大変な勢いで変化(進化)していきそうな予感がします。

教育にお金を掛ける余裕が無い途上国が、オープンエデュケーションに掛ける期待はとても大きいようです。最近、20億の人たちがインターネットにアクセスできるようになったようですが、このように少しずつ世界中の人たちの手にインターネットが広がっていき、オープンエデュケーションへの参加障壁が低くなることで、世界の教育格差が縮まっていく事が期待されます。


ところで日本でも東京大学や京都大学、名古屋大学などを中心にオープンエデュケーションに取り組まれている例はあるようです。しかし世界から見るとまだまだ遅れている状況で、特に初等教育や中等教育での取り組みは残念ながらほとんど確認できませんでした。

今のところオープン・コンテンツやオープン・テクノロジを活用して独学を進めるには、やはり英語は必要不可欠ですね。本書を読みながら、「英語で学ぶ」ために「英語を学ぶ」必要性を痛切に感じました。

なお、『ウェブで学ぶ』については、以下のブログ記事(書評)が参考になると思います。


おまけ。NAVERまとめに本書で紹介されていた海外のオープンエデュケーションへの取り組み事例をまとめてみましたので、是非アクセスしてみてください。