2010年4月2日金曜日

キュレーションはメディアを救えるか?

一昨日、ITジャーナリストの佐々木俊尚(@sasakitoshinao)氏が「キューレーション」というものについてTweetされていました。
3:20 PM Mar 31st
電子書籍にしろ報道にしろ、情報がオープン化していく時代においては情報を握っていることではなく、情報をどうキュレーションできるかが最大の強みとなる。これ今後のメディアの基本原則のひとつだと考えています。

3:23 PM Mar 31st
正直に言うとここ数か月、私がTwitterに精を出しているのも、情報のキュレーションをどこまで追及できるかという実践的試みの意味があったりしています。

3:42 PM Mar 31st
キュレーションは情報を収集し、選別し、意味づけを与えて、それをみんなと共有することです。参照:http://www.businessinsider.com/can-curation-save-media-2009-4
この中でキュレーションに関する英文記事へのリンクが張られていたのですが、この記事の内容が非常に興味深いものでした。記事の概要は次の通りです。
  • 今や誰もがコンテンツの制作者になれる
  • インターネットには玉石混合様々なコンテンツが溢れるようになった
  • その結果本当に必要な情報を手に入れるのが難しくなっている(単なるアグリゲーションはもはや意味を無さなくなった)
  • このような状況で最も必要とされるのが信頼のある企業(マスメディア企業)によるキュレーション、すなわちコンテンツの「収集」「選別」「意味付け」「共有」だ
  • そして「キューレーション」こそがマスメディア企業復興の鍵となる
  • 米国には既にキュレーションで成功している事例もある
博物館業界には「キュレーター」という職業がありますが、この概念をメディア業界に適用したものだと考えます。ウィキペディアのキュレーターの定義(2010年04月02日現在)には次のようにあります。
キュレーターとは

欧米の博物館(美術館含む)、図書館、公文書館のような資料蓄積型文化施設において、施設の収集する資料に関する鑑定や研究を行い、学術的専門知識をもって業務の管理監督を行う専門職、管理職を指す。

現代美術のキュレーター

現代美術の世界においては、キュレーターは展覧会の企画者としての業務が重要である。これは現代美術に携わる現役のアーティストの社会との接点が主として展覧会であり、現代美術と社会の橋渡しをする存在としてキュレーターが重要な位置を占めるからでもある。キュレーターの仕事は、展覧会のテーマを考え、参加アーティストやアート作品を選択し、しかるべき展示会場に、好ましい効果を発揮するようにアート作品を設置し、カタログに文章を執筆することなどである。
メディア業界におけるキュレーションは「編集者が、自身が担当するメディア(ウェブサイト)のテーマを考え、コンテンツの制作者やブロガーを選択し、しかるべき場所に、好ましい効果を発揮するようにコンテンツを配置し、解説文などで補足すること」と言い換える事ができそうです。

私は以前から同様の考えを持っていたため、「キュレーション」という概念は非常にしっくりきました。そして佐々木氏が仰るように、マスメディア企業は一刻も早くこの「キュレーション」に取り組むべきだと考えます。

以下、本記事の全訳を掲載しておきます。シドニー・シェルダン並みの超訳となっている箇所もありますがご容赦下さい。誤訳を発見されましたらご連絡いただけると助かります。

----------
[元記事] Can 'Curation' Save Media?

# キュレーションはメディアを救えるか?

WEB上で「読む」「観る」「共有する」ことについて、規模の大小に拘らずメディア企業にとって非常に良いきざしがある。キュレーションだ。

メディアについてポジティブな事を言うのはそれほど一般的ではない。今起きている変化は実用的、必然的なもので、編集作業がとりあえず楽になっただけに過ぎず、今もなお旧メディアにとっては厳しい日々が続いている。しかし、未来はすぐそこまで来ている。

メディア企業はまず過去から脈々と続く配信・配送の仕組を廃棄しなければならない。新聞と雑誌は双方とも大きさや形、紙の質感と結びついている。きらきらとした雑誌の質感に対してざらざらとした新聞の質感…こうした相違点はデジタルの世界には存在しない。元 Time Inc. Ventures の編集者兼主任、現在は Readers Digest のCEO兼社長である Eric Schrier 氏は次の様に言う。「私はこれまで、雑誌ビジネスは雑誌社をコンテンツ会社と捉え直すことで、新しい環境でも生き残り繁栄するだろう、と言い続けてきた。」

コンテンツがデジタル形式でいつでもどこにでも配信される世界では、雑誌社、テレビ局、本の販売元、そして一般利用者はみな等しく情報配信プラットフォームとしてのWEBにアクセスできる。ブランドや広告会社も同様だ。実は旧メディアの創始者達は、「メディアをスポンサーからの広告費で運営する」ビジネスモデルにおいて、等しく良いポジションに居る。「広告からPR、ダイレクトマーケティングからプロモーションに至るまで、デジタルは我々の行動全てに関与している。」とはOgilvy Digital のCEO Jean-Philippe Maheuの言。

ここで Maheu と Schrier の共通点がキュレーションだ。

キュレーションは、メディアの敵とみなされている二大トレンド、すなわち「数千のユビキタスなコンテンツ配信」及び「一般の人々によるコンテンツ作成」を克服するために、過去12カ月で大きな影響を持った言葉だ。

旧い形態の配信は対マス向けであった。しかし新しい形態の配信は対少数向けだ。すなわち、無数のコンテンツが作成され、そしてそれらコンテンツの大多数は少数の人の興味しか惹かない、という事だ。しかしここには、関係性も無くばらばらなコンテンツとともに、発見され、整理され、広告が付くような、関連性を持った素材もある。

メディアで働く専門家にとって、キュレーションが新たな役割となる。

最も重要なのは、編集作業に重きを置き、コンテンツの探索に時間を費やす事は望まない人々に対し、クオリティの高いコンテンツのコレクションを与えることだ。これは我々がメディアに対して期待することで、そしてメディアはそれをより良く実践するためのツールを既に持っている。

そう、メディアの未来はより良いもので、決して悪いものではない。

例えば The Readers Digest Association (RDA) は食べ物のカテゴリを扱っている。RDA は休日の食事及び日々の家族向けの晩御飯を料理するミドル世代をターゲットとした TasteofHome.com というサイトを保有している。彼らは彼らの読者の味覚、そして予算を知っている。以前 Tast Of Home は毎週何本かの動画を制作、合計200本を制作してきた。しかしそれだけは足りなかった。現在、彼らは品質の高い2800本の動画を所有しているが、彼らはこれら全てを制作したわけではない。彼らはキュレートしたのだ(www.videos.tasteofhome.com を参照)。

キュレーションはアグリゲーションに近い意味を持つ。アグリゲーションは「集める」ことで、例えば "Easter Supper" という言葉で動画を見つけるようなものだ。しかし、誰もが携帯電話で、動画を始め様々なコンテンツの制作が可能になってしまい、コンテンツは溢れ、もはや集める事には価値は無くなった。アグリゲーションはアグリゲーションでしかないのだ。

Arianna Huffington は早期のキュレータだ。'Huffington Post' の編集チームは、彼女らのHPに掲載するトピックを選び出す。彼女らはジャーナリステックな編集作業において、ブログやウェブサイトから最適なコンテンツを選び出す作業を実施している。Michael Wolff の 'Newser' も同様だ。恐らくキュレータの第一人者は 'The Drudge Report' の Matt Drudge だろう。

今日、キュレーションは多くの編集チームにとって中心的なものとなっている。The New York Times は外部からブログ記事をキュレートしている。そして Times は彼らが彼らのブランドでコンテンツを評価し再配信することが、読者及びコンテンツの作り手にとって、より価値のあることだということを知っている。

キュレーションは、ブランドと配信に力を再び与える。だれもがコンテンツの制作者となり得る現在、信頼されているコンテンツ制作者によるコンテンツの収集及び提供はリスクを伴うため、より価値がある。

動画のトレンドはUGV(user-generated video / ユーザが制作した動画)からCVC(curated video content / キュレートされた動画)に向かう。

ここで、休暇でユタ州の Park City に行く事を計画しているSmith一家について考えてみよう。彼らは YouTube で動画を見る事ができる。しかし目的の動画を探す中で、大量のスパム動画に晒される。中には危険な動画もある。しかし、スキー雑誌、もしくは Park City Resort がSmith一家に提供する動画にはこうした心配が無い。ここにキュレーションがある。

目的に合致した形で集められ提示されるコンテンツ。スキー雑誌がキュレートした Park City に関するコンテンツ群には、異なる趣旨、異なるコンテンツが存在するだろう。Ogilvy の Maheu は次のように言う。「近い将来日常的になる新たなマーケティングチャネル、これを通してブランドを形成する新たな機会として捉え、このビジネス(キュレーション)に参入する…これは非常にエキサイティングだ。私は、広告主がコンテンツが持つメッセージをより効果的にすることで、Curated Video Content に対する新たなニーズが産まれるものと考える。」

キュレーション経済の出現は信頼された情報源に対するより大きなニーズを創造し、そして Schrier のアドバイスを聞き入れたメディア企業は、シングル・メディア・プラットフォームからマルチ・メディア・プラットフォームに迅速に進化する事ができる。しかし、そのインパクトはとても大きい。既に私の会社 Magnify.net は52,000ものキュレートされた動画のチャンネルを持つ。メディア企業は彼らのキュレーションのソリューションを Magnify.net 上に見出しており、電子商取引の会社と共に参入し、ブランドや新たな複合コンテンツ群を構築し始めている。

Taste of Home、New York Magazine、Jones Soda、Zappos.tv、そして Bicycling Magazine。これらはみなコンテンツのキュレーションを将来の編集の鍵だとみなしている。コンテンツの制作者がプロフェッショナルから一般の人たちに広がる中、信頼できるコンテンツの集合は重要になってきている。

キューレートされたマイクロメディアの例を www.Droideo.com に見る事ができる。これは Google Android に関する Google Android ユーザのためサイトだ。このサイトは3500のユーザを抱え、Android に関する最高の動画を保有する。サイトのオーナーはキュレートに細心の注意を払い、そして訪問者は、洗練され、自身の興味にフォーカスされた関連性の高いコンテンツを見るために毎日訪れる。これが私にとってのメディアだ。
----------