ここで紹介されたCNNのデジタルメディア戦略が非常に興味深いものでしたので、拙い文章で恐縮ですが、ここに概要をまとめておきます。
■ CNNが捉えている時代の変化
CNNは次のように時代の変化(テクノロジーの進化)を捉えている。
- デジカメの進化、ウェブサービスの充実などにより、リポーターが一人で出来る事が増えた
- ケータイ電話やスマートフォン、モバイル端末、PCの普及により、同時に複数のメディアに接触できるようになった(そのため、メディアへの接触時間は増えている)
- 多様な新興メディア企業が登場したことにより、競合他社が細分化してきている(これまではテレビ局同士の戦いだった)
- ソーシャルメディアの普及により、聴視者の反応がリアルタイムに分かるようになり、また、聴視者とのコミュニケーションが取れるようになった
こうした時代の変化を背景に、CNNは「報道の質を向上させること」「コンテンツをデバイスに最適化させること」そして「聴視者とのエンゲージメントを深めること」に注力している。例えばニュースの掘り下げや分析、インタビューを増やしたり(報道の質の向上)、デバイスへの接触方法を考慮してコンテンツを配置したり(デバイス最適化)、市民記者との協力体制を築くなど(エンゲージメントの深化)、といった施策を進めている。
■ CNNのデジタルメディア戦略
CNNのデジタルメディア戦略の肝は次の3点にある。
- 編集部門の拡充
- ソーシャルメディアの取り込み
- プラットフォームの活用
競合企業が細分化した今、速報記事だけでは勝負にならない。フィーチャー記事(読み物的な記事)や分析記事といった内製コンテンツを強化するとともに、市民記者から投稿される動画コンテンツなども強化していく必要がある。そしてそのために編集部門を拡充している。CNNでは市民記者から投稿された動画コンテンツには全て目を通し、チェックを通ったものだけを採用している。
ソーシャルメディアは今や必要不可欠なツールだ。自社のコンテンツをより多くの聴視者に見てもらうに、聴視者同士のソーシャルネットワークを活用する。CNNはソーシャルメディアを恐れない。フェイスブックコネクトは早速導入した。また、ツイッターなどで聴視者の動向をチェックし、その結果をリアルタイムにサイトへ反映させる(コンテンツの配置をリアルタイムに変更する)仕組を採り入れている。
(注:「プラットフォームの活用」についてはあまり言及されていなかったのですが、恐らく「自社で全てのシステムを作るのではなく、ツイッターやフェースブックといった外部サービスも利用する」あるいは「メディアに必要な機能をある程度パッケージ化しておき、新規メディアを立ち上げるコストを低減させる」といったことだと思います。どなたか情報をいただけると助かります。)
■ iReport、市民記者について
CNNは市民記者からニュースソースの投稿を受け付けるサービス「iReport」を通して、市民記者との信頼関係を築きあげている。現在iReportには、全世界で約60万人の市民記者が登録している。市民記者からはこれまでに50万件以上のニュースが投稿されたが、その全てに目を通した。そして編集者のチェック(裏取り)に通ったものだけを、サイトやテレビに採用している。
CNNのリポーターが行けないところにも市民記者は居る。テクノロジーの進化により、市民記者も品質の高いコンテンツを作れるようになった。ハイチ地震では市民記者から投稿されたコンテンツ、特に安否情報は役立った。
iReportは2006年にサービスを開始したが、それまでに紆余曲折があった。当初はプロのジャーナリストからの反対もあった。しかしそれを乗り越えた。
CNNはテクノロジーに相当力を入れている印象を受けました。ここまでソーシャルメディアを活用し、さらにはニュースサイトをインタラクティブに作り上げているメディア企業は、世界中を見回してもなかなか無いのではないでしょうか。また、市民記者への取り組みは、日本の状況と比較すると特筆すべき点だと考えます。
Estenson氏は他に次のようなことにも言及されていました。
- 若者へのアプローチを工夫している
- 今後はモバイルに力を注ぐ
- グローバル戦略においてローカルの文化を大切にする
- ブランドイメージを大切にするために、CNN.com上の広告は全て自分達で調達している。アドネットワークは使わない
日本のメディア企業にも是非頑張って欲しいですね…
以下は会場で配布されていた冊子に掲載されている本プレゼンの紹介です。参考までに転載しておきます。
伝統的であろうと新興であろうと今日のメディア企業は、デジタル分野のグローバライゼーションを常に見据え、新規のユーザ獲得という命題を抱えつつ既存の消費者とのつながりをいかに維持していくかという難問と日々格闘しています。ユーザ参加型コンテンツやソーシャルネットワーク、ロケーションベースのサービス等がもたらすパラダイムシフトに取り組みながらも、メディア企業は革新的かつ収益をもたらす理想のバランスを追求するパートナーシップを模索しなければなりません。CNN.com上席副社長兼ジェネラル・マネージャーのKCエスタンソンが、収益の強化とCNNブランドの持つブランド力の維持を実現する一方で、いわゆる「旧メディア」ブランドに新たな革新の精神と失敗を恐れない実験という新たな風を吹き込むことに成功してきたのかを語ります。
また、講演内容に関するツイッターのツイートをTogetterにまとめておきました。断片的で恐縮ですが、当日の雰囲気や話の流れを掴んでいただけるのではないかと思います。
CNNのデジタルメディア戦略について、もっと調べてみたいですね。
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[2010-10-30]
ブログ『メディア・パブ』に、iReportに関する詳細な情報がありました。
ご参考までに。