2010年5月18日火曜日

電子書籍の流通構造を把握する

Kindleの上陸やiPadの国内販売開始を背景に、佐々木俊尚氏(@sasakitoshinao)の著書「電子書籍の衝撃」のヒットも相まって、ブログやツイッター上では電子書籍に関する無数の議論が展開されています。現在はまだ結論が出揃っているとは言い難い状況ですが、「ビジネス上の理由から、出版に携わる企業は遅かれ早かれ電子書籍に対応する」ことは既に既定路線になっていると言えそうです。と言う事で、「電子書籍を取り扱う(であろう)企業の情報システム担当者」としては、ここは冷静に先を見越して具体的なシステム化戦略を策定しておくべきだと考えました。なお、電子書籍を巡る技術的な現状については過去の記事もご参照下さい。
さて、電子書籍を取り扱うためのシステム化戦略策定の出発点として、まずは電子書籍の流通構造を把握しておくことが肝要だと考えました。これまでに集めた情報を基に電子書籍の流通構造をクラス図で表現すると次のようになりそうです。なお、全体構造の把握を目的としたため、余分だと判断した情報は全て排除しています。

eBookStructure_r0

図中の用語の定義は次の通りです。

■ ${電子書籍原本所有者}
電子書籍の原本(コンテンツ)を保有し、販売する権利を持つ法人・個人。主に出版社が該当するが、著者が直接${電子書籍原本所有者}となるケースもある。${電子書籍原本所有者}は複数の${電子書籍原本}を保有し、個々の${電子書籍原本}には一つの${著作権情報}が紐付けられる。

■ ${電子書籍流通プラットフォーム}
電子書籍を流通させるためのプラットフォーム。iBookStore、Amazon、Barnes&Noble、Google Editions、及び日本のeBookJapanなどがある。携帯電話から直接利用可能な電子書籍書店や青空文庫プロジェクト・グーテンベルグもこれに該当する。
${電子書籍原本所有者}${電子書籍流通プラットフォーム}に自身が管理する${電子書籍原本}を登録する。${電子書籍流通プラットフォーム}で管理されている${流通電子書籍}には、当該${電子書籍流通プラットフォーム}で既定された${DRM}が付与されている事がある。

■ ${電子書籍リーダ}
${電子書籍リーダプラットフォーム}上で稼働する電子書籍を閲覧するためのソフトウェアで、iBookやKindleアプリ、Adobe Readerなどがこれに該当する。${電子書籍リーダプラットフォーム}はPCやMac、iPad、ウェブブラウザといった、${電子書籍リーダ}を動作させるためのプラットフォームで、KindleやNOOKなど${電子書籍リーダ}${電子書籍リーダプラットフォーム}が一体になった製品も存在する。
${電子書籍リーダ}で電子書籍を読むためには、${電子書籍流通プラットフォーム}から${流通電子書籍}を取得(購入)する。${電子書籍リーダ}には従属する${電子書籍流通プラットフォーム}を一つ以上持つ場合がある(「iBookはiBookStoreに従属する」「KindleアプリはAmazonに従属する」など)。なお、インターネットから${電子書籍リーダ}に対応したファイルをダウンロードして読むことができるものもある。

ここで、電子書籍を取り扱うためのシステム化戦略を策定する上で押さえておきたいポイントを以下にまとめておきます。
  • リーチしたいユーザが多く持つ${電子書籍リーダ}及び${電子書籍流通プラットフォーム}をメインターゲットとし、まずはここに対応させる事に主眼を置く。
  • ただ一方で、今後どの${電子書籍リーダ}(あるいは${電子書籍流通プラットフォーム})が勢力を拡大するかは不透明なため、出来れば複数の${電子書籍流通プラットフォーム}に対して${電子書籍原本}を登録することを視野に入れる。
  • そのためには極力多くの${電子書籍流通プラットフォーム}に登録可能なフォーマットで${電子書籍原本}を管理しておきたい。
  • 電子書籍はそれほど大きな利益を上げるビジネスには成り難く、また現在はまだまだ黎明期にあたるため今後も多くの仕様変更も予想される。従ってコストを抑え、変化に強い実現方法を検討する必要がある。
なお、「電子書籍の傾向と対策」でも少し触れましたが、インタラクティブ性を高めたい場合には、無理に${電子書籍リーダ}を特定せず、iPhoneアプリやAndroidアプリなど、専用アプリで展開することも視野に入れて良いと考えます。

次回は本稿の内容を軸に「電子書籍の流通構造」をさらに詳細化してみたいと思います。ご意見などいただけると助かります。