「ウェブ上の取材だけで記事化されたものは"あり"か?」
先日開催された『ジャーナリストエデュケーションフォーラム2010』のワークショップセッション『ウェブでどこまでできるのか-この瞬間のニュースを深堀し、展開するためのスキルとテクニック』で、アカデミック・リソース・ガイドの岡本真氏が問いかけられたこれら2つのテーマは、いずれも非常に興味深いものでした。
マスメディアが配信する記事は様々な読者を想定して書かれているため、事実だけが端的にまとめられた、ある意味表層的な記事が多く、「そこには書かれていないけれども重要なこと(ニュースの裏に潜んでいる事実・真実)」が見過ごされているケースが多々あります。また、記事に書かれている内容が事実と異なっていることや、記事の作成者による「偏向」があることもしばしばあります。
記事の読者としては、普段目にする記事のこうした特徴を踏まえたうえで、うまく付き合っていく必要があります。そしてここで重要になってくるのが「ニュースの裏に潜んでいる事実・真実を深堀する」ことです。
岡本氏は「今やほとんどの事をウェブで調べる事ができる」「ウェブを巧く利用することで、ニュースの裏を読むための情報を引き出せる」と前置きされたうえで、一本の記事からニュースをさらに深堀するためのテクニックに言及されました。
具体的には「類似の事象を扱った過去の記事を検索し、読み比べ、ニュースのパターンや記事の論調の違いから、記事にない情報を推測する」という方法です。新聞記事の読み比べを実践されている方は多いと思いますが、報道に携われている方は別として「類似の事象を扱った過去の記事」との読み比べを実践されている方は少ないのではないでしょうか。
本セミナーの当日(12月4日)は東北新幹線の全線が開業された日だったのですが、Yahooトピックスに「東北新幹線 一時運転見合わせ」との記事が掲載されました。ここで、記事には運転を見合わせた理由は「強風の影響」とされていましたが、類似の事象を扱った過去の記事をウェブで調べ、新幹線が開業された日には機械トラブルが頻発していることがわかれば、別の視点からニュースの裏側を推測することもできます(例えば「強風の影響はあったかもしれないけど、本当の原因は機械トラブルではないか?」)。
全ての記事についてこうした見方をするのは難しいかもしれませんが、重大なニュースや影響の大きなニュースについては、少々時間を掛けてでも実践してみた方が良いかもしれません。
折角なので、会場から提案のあった「ウェブを使ってニュースを深堀する方法」も併せてご紹介しておきます。
- 複数のメディアで同じニュースを扱った記事を読む
- SNSやツイッターでニュースに対する口コミを調べる
- 関連する企業や機関の公式サイトを調べる
- (Yahooトピックスの記事であれば)各記事の下段にある関連サイトを調べる
さて、本ワークショップセッションのもう一つのテーマ「ウェブ上の取材だけで記事化されたものは"あり"か?」も非常に強力な内容だったのですが、こちらは別の機会にまとめてみたいと思います。ちなみにこのテーマの背景にあるのは「取材現場へのソーシャルメディアの浸透」です。岡崎図書館事件(通称librahack/リブラハック事件)で、朝日新聞社の記者がこの事件の真相を究明する過程でツイッターを活用されていたのはご存知でしょうか。こうした試みは今後益々増えていくと考えられます。
日本でも最近になってようやくメディア・リテラシ教育の必要性がある程度認知されるようになってきてはいますが、実際にはあまり浸透している様子はなく、メディア・リテラシを向上させるための方法論もほとんど聞いたことがありません。こうしたなか、今回岡本氏よりご紹介いただいた「ウェブでニュースを深堀する」ためのスキルやテクニックは、メディア・リテラシを向上させるうえでも非常に有用ではないかと考えました。今後自分でも実践し、有る程度その有用性を実感できれば、メディア・リテラシ向上のための社内勉強会やワークショップに発展させてみようかと目論んでいます。